牡丹の季節

ある日、唐突に號が口を開いた。

「隼人の腐れちんこ野郎」

それは彼からの初めての悪口だった。


「おい、何が気に障ったか知らないが、それはいくらなんでも酷い呼ばれようじゃないのか」
「じゃあもぎたてちんげ野郎」
「それもなんなんだ」
「もぎたてにフレッシュな感じを出してみた」
「ちんげにその要素はいらんだろう」
「春らしいさわやかさ」
「ぶちぶちちんげをむしる行為にそんな季節感はない」
「春、爽やかな風に誘われて公道を全裸で歩くお前、そよぐちんげ、はらはら舞いゆく桜吹雪」
「こらこら俺は何者だ。そしてなんでそこはかとなく叙情的な表現なんだ」
「街の人達の視線はお前に釘付け」
「そりゃそうだろう」
「おまえはちんげをむしっては手のひらを高く掲げ、桜とともに風に乗せる」
「だから叙情は余計だと思うんだが」
「あまりに堂々とした爽やかさに心打たれた芸術家がお前の銅像を作り、街に寄贈する」
「見てた芸術家もなんなんだ」
「銅像のタイトルは『もぎたてちんげ野郎』」
「そこか!」
「感動的なシナリオだ」
「しないしない、第一局部の露出は犯罪だ」
「そこは花見の酔っぱらい客がストリップしたって事で片付けられるだろう」
「いずれにしろ捕まるわ!
 大体誰がもぎたてちんげ野郎だ。何をそんなに怒ってるんだ?何が原因なんだまったく」
「台所にあったぼたもちを食ったろう」
「昼の残りな、あれ?でもおやつに皆食ってたろうが」
「あれは残りじゃない、残しておいたんだ」
「?」
「博士とミチルに」
「…」
「さっき、もち米とささげは水につけて仕込んだ。明日また作る」
「…」
「勿論手伝ってくれるな?」
「…喜んで」

「…で、なんで腐れちんこ野郎とか、もぎたてちんげ野郎とか言ってたんだ」
「他意はない。ただ、悪口を言ったことがなかったから竜馬に聞いたら
 『馬鹿とかあほとか言うより、下半身のだらしないことを指摘した方がいい』って言ってた」
「………」



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